朝起きれない起立性調節障害の治療
たちくらみや失神、動悸、頭痛、発熱、朝起きれないなどの症状を伴「起立性調節障害」は、鍼灸治療で改善される病気です。
起立性調節障害とは
起立性調節障害は、自律神経系の異常で循環器系の調節がうまくいかなくなる疾患です。
主に小学生中学年から中学生の思春期前後の小児に多く見られ、起立時にめまい、動悸、失神などが起きる自律神経の機能失調です。
はじめは、午前中は調子が悪く、脳に十分血液が通わないため、授業や仕事に集中出来ないことが多いですが、夕方には回復するため、「怠け病」と扱われて辛い思いをすることもあります。
また、朝起きれない、頭が痛い、学校に行きたくないなど「いじめかな?」ともとられるような不登校の症状ですが、本人の意志とは無関係にあらわれる症状です。れっきとした病気なので治療が必要となります。
起立性調節障害の多くは、自律神経に関係する末梢血管交感神経活動が低下してしまう病気です。
起立性調節障害チェック項目
次のような症状は、起立性調節障害かもしれません。
診断は、次に掲げる「チェックリスト」うち3つ以上当てはまり、かつサブタイプのいずれかに合致することとなっています。 (起立性調節障害サポートグループ)
- 立ちくらみやめまい
- 起立時の気分不良や失神
- 入浴時や嫌なことで気分不良
- 動悸や息切れ
- 朝なかなか起きられず午前中調子が悪い
- 顔色が青白い
- 食欲不振
- 腹痛
- 倦怠感
- 頭痛
- 乗り物酔い
起立性調節障害の分類
① 起立直後性低血圧
第1に多いタイプは、起立直後性低血圧です。
英語ではinstantaneous orthostatic hypotension、INOH、アイノーと言います。
アイノーは、起立直後に一過性の強い血圧低下があり、同時につよい立ちくらみと全身倦怠感を訴えます。血圧回復時間が25秒以上であれば、アイノーと診断できます。
アイノーには、軽症型と重症型がありますが、起立時の血圧低下が強く、収縮期血圧が15%以上低下したままであれば、重症型と診断します。
アイノーの起立時のノルアドレナリン分泌は低下しており、重症型ではその障害が顕著です。
小児では代償的な頻脈を認めます。
② 体位性頻脈症候群
2番目に多いタイプは、体位性頻脈症候群です。
英語でpostural tachycardia syndrome、略してPOTS、ポッツと言います。
ポッツは起立時の血圧低下はなく、起立時頻脈とふらつき、倦怠感、頭痛などの症状があります。
起立時の心拍数が115以上、または起立中の平均心拍増加が35以上あれば、ポッツと診断します。起立中に腹部や下肢への血液貯留に対して、過剰な交感神経興奮やアドレナリンの過剰分泌によって生ずると考えられています。
③ 血管迷走性失神
3番目は、血管迷走性失神です。
英語でneurally-mediated syncope、略してNMSといいます。
起立中に突然に収縮期、拡張期血圧が低下し、症状が出現します。
発作時に徐脈を起こす場合もあります。
通常は、起立中に過剰に頻脈が起こり、そのため心臓が空打ち状態となり、その刺激で反射的に生ずると考えられています。
したがって、アイノーやポッツでもNMSが起こります。
失神発作を主訴とする患者の検査陽性率は、欧米では20~64%と報告されており、珍しい疾患ではありません。
④ 遷延性起立性低血圧
4番目は、遷延性起立性低血圧です。
起立直後の血圧反応は正常ですが、起立数分以後に血圧が徐々に下降し、収縮期血圧が15%以上、または20mmHg以上低下します。
頻度は余り多くありません。
静脈系の収縮不全と考えられ、拡張期圧は上昇し脈圧の狭小化を招きます。
日本小児心身医学会編 小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン(改訂版)では、以下の新しいサブタイプが記載されていますので、紹介します。
⑤ 起立性脳循環不全型
5番目は、脳血流低下型(起立性脳循環不全型)です。
これは、起立中の血圧心拍変動は正常内ですが、起立中に脳血流が低下して、それに伴う様々なOD症状が出現します。診断には、脳循環を測定できる特殊な装置(たとえば近赤外線分光計(near-infraned spectrocopy;NIRS)を必要とするため、一部の医療機関でしか診断できません。診断基準も国際学術誌に発表されています。
⑥ 高反応型
6番目は、高反応型です。
これは、起立直後に一過性の著しい血圧上昇を起こし、それに伴う様々なOD症状が出現します。診断には、一心拍ごとに血圧を測定できる特殊な装置(たとえば非侵襲的連続血圧測定装置(Finometerなど)を必要とするため、一部の医療機関でしか診断できません。診断基準も設定されています。
これに加えて、
⑦起立性高血圧型 も報告されています。
これは、起立後に臥位よりもかなり高い血圧になるタイプです。やはりOD症状が出現します。
起立性調節障害の治療
日本小児心身医学会では起立性調節障害に対して
<起立性調節障害(OD)に対する整骨や整体などの代替療法の効果についての声明>
を発表しています。
しかし、当院の治療法としては、これに該当しない小児、自律神経系専門の鍼灸治療となります。
東京大学医学博士になられ元筑波技術短期大学学長等をされていた西條一止先生の著書や講義では、鍼灸治療が人体に及ぼす自律神経機能の変化を科学的根拠に基づき紹介しています。
このメカニズムを利用することにより、副交感神経が優位になり誘発する喘息発作を改善することも可能ですし、末梢血管交感神経活動が低下してしまう起立性調節障害にも応用することができます。また、現在の体質を東洋医学的診断、治療からもアプローチすることで起立性調節障害の症状改善、再発防止につながります。
ただ、注意すべき点は、以上のようなメカニズムを正しく理解し治療に反映しなければ効果が出ません。
当院では、西條一止先生が学長を務めていた「東洋医学臨床技術大学校アカデミー」にも全8期(8年)参加しており自律神経治療の西條イズムを継承しています。
参考文献:
鍼灸臨床最新科学 メカニズムとエビデンス(医歯薬出版株式会社)
臨床鍼灸治療学(医歯薬出版株式会社)
臨床鍼灸学を拓く第2版 科学化への道標(医歯薬出版株式会社)