男性側の不妊治療
不妊治療は女性だけの問題ではありません。
女性は35歳を過ぎると、卵巣から出てくる卵子が老化してくるため、妊娠は難しくなるとよく言われていますが、男性は、35~40才を過ぎると年齢と共に精子の数が減少します。また、昔の同年代の男性と比べ、精子の数、運動率、奇形の数すべてがマイナスになるという統計が出ています。
少し前の統計ですが、上のグラフは、35歳男性の精子数の減少率を、1989年の精子数を0としてグラフに表したもので、1989年には1ミリリットル当たり7360万個の精子数が確認されましたが、2005年までに精子数は4940万個とほぼ3分の1にあたる32.2%減少していることが明らかになりました。
もともと日本人は、他国と比べ、精子の数が少ないとされています。そのことに追い打ちをかけるように日本では、さらに過度のストレス、長時間のデスクワーク等の影響で、精子減少、運動率の低下、精子の奇形数増加など男性不妊の症状でお悩みの男性が急増しています。
不妊治療の病院を受診することに抵抗がある男性は少なくありません。
そこに「精液検査」をすると言われれば、さらに受診したくないという方が多くなります。
しかし、現在の不妊症の原因のうち、約半数は男性側の原因があります。女性だけが不妊治療をすればいいのではなく、単純に体外受精をすればいいのでもなく、男女ともに不妊専門の鍼灸治療をおこない、妊娠の準備を整えてはじめて体外受精、移植が意味をなします。
男性不妊の原因と種類
男性不妊の原因は大きく分けると
- 造精機能障害
- 精路通過障害
- 性機能(性交)障害
の3つがあり、原因の約90%が造精機能障害です。
造精機能障害は、精子をつくり出す機能自体に問題があり、精子をうまくつくれない状態です。
精巣やホルモン分泌等の異常が障害をひき起こします。
造精機能障害には下記のような種類があります。
無精子症 | 造精機能障害の中でも重い症状です。精液中に精子が一匹もいない状態ですが、精巣や精巣上体に精子が存在していれば、顕微授精などの不妊治療で受精・妊娠することが出来ます。 |
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乏精子症 | 精液の中に精子はいるけれど、その数が少ないという症状です。精子の数が基準を少し下回る程度であれば、タイミング法などを行います。さらに精子の数が少ない場合、人工授精、体外受精、顕微授精等の不妊治療を行います。 |
精子無力症 | 精子の数は正常にあるけれど、製造された精子の運動率が悪い症状です。その精子の状態により人工授精や顕微授精などの不妊治療を行ないます。 |
WHOが定める正常精液の基準
WHO(世界保健機構)の精液検査の正常値(2010年)
精液量 | 1.5 ml以上 |
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精子濃度 | 1 ml中に1500万個以上 |
総精子数 | 1 ml中に3900万個以上 |
運動率 | 40%以上 |
正常形態率 | 4%以上(奇形率96%未満) |
総運動精子数 | 1560万以上(総精子数×運動率) |
以上の状態を満たしていない場合、妊娠の可能性が低下してしまいます。
不妊治療の流れ
1.問診・脈診・腹診
当院では、まず男性患者さんから今までの治療状況、仕事を含めた生活リズム等をうかがって、マイナス要因を確認します。
問診後は、実際に体がどのような状態なのか、脈診等の身体所見で乱れも読み取ることができ一人ひとりに最適な治療プランを考えます。
2.鍼灸治療
問診と検査等の後は、ベッドに横になってリラックスしていただいた状態で鍼灸治療をおこないます。
鍼は髪の毛と同じくらいの太さ0.1mmほど、お灸は、火が直接肌に触れないものを使用していますので、火傷やお灸の痕が残る心配を極力減らします。
お灸にはリラックス効果だけでなく、血行の促進や抵抗力を高めて体を強くしてくれるといった様々な作用があります。また、鍼治療の後にお灸をすることで、治療効果が持続する作用もあります。
心身ともに健康でいることが妊娠への最大の近道
精子は、精巣の中にある精細管で「精祖細胞→精母細胞→精子細胞→精子」と細胞分裂していきます。精子へ成長すると、精巣上体に移動し、10~20日かけて成熟、泳ぐ力や卵子に侵入する力をつけます。
ここまでの過程を経過するまでに70~80日かかるとされています。つまり、元気な精子を射精するには80日前から準備が必要ということです。
補足として、射精後5~6時間で受精能力が完成し、4~5日生きるとされています。また、女性の子宮頸管→卵管へと進むまでに次々と脱落し、卵管までたどり着ける精子は正常な総精子数3900万個以上のうち数十~数百となっています。その中のたった1個が、卵子の中に入り込むことができれば受精となります。
精子の数が少ない・運動率が悪い、奇形が多いなどの状態は女性のホルモンバランスと同様、生活習慣や疲労など体の状態によっても大きく左右されることがおわかりでしょうか。
疲れがとれない、ストレスが溜まっている、腰が痛い、暴飲暴食、急激に体重が増えたなど思い当たる人は要注意!体が元気でなければ良い精子は生まれません。
鍼灸治療をすることで骨盤内、特に精巣を中心とした血液循環が良くなり、同時に自律神経のバランスが整うことで、精巣の働きが高まり、精子の数や運動率が改善されます。
鍼灸の治療効果は、早い人では1回目の治療後から体感できます。前述のように、確実に男性不妊を改善させるには、およそ3ヶ月治療を継続することです。治療の頻度、期間等は、初診時に体の状態をみてご説明いたします。病院での治療と併用して構いません。その方が確実に効果があがります。